OCIセキュリティ実践

こんにちは、技術部の今野です。

クラウドセキュリティは一見複雑に思われがちですが、一番大切なのは「最小権限(Least Privilege)」と「最小公開(Least Exposure)」というシンプルな原則です。Oracle Cloud Infrastructure(OCI)に限らず、すべてのクラウドで共通する考え方です。

  • 最小権限:必要な人に、必要な分だけの権限を与える。
  • 最小公開:必要なサービスだけを外に公開し、他は徹底的に隠す。

この「最小限」を徹底すれば、万が一の時も被害を最小限に抑えられます。この記事では、OCIでこれをどう実現するか、基本的な機能と実践ポイントを解説します。

クラウドセキュリティの基本:2つのカギ🔑

クラウドでは、アクセスとネットワークの管理が特に重要です。OCIでは、以下の2つの機能が「最小限」の原則を実現するカギとなります。

  • IAM (Identity and Access Management):誰がリソースにアクセスできるかを管理します。
  • VCN (Virtual Cloud Network):どこまでネットワークを公開するかを管理します。

これらは「ゼロトラスト」という考え方の土台にもなります。OCIは最初から最低限の権限しか与えない設定なので、安心してセキュリティ対策を始められます。

1. 権限を決める:IAMで「最小権限」を実践

OCIの権限は「IAMポリシー」というルールで設定します。ポイントは、個人ではなく「グループ」に権限を付与することです。

役割ごとにグループ化

  • 職務(役割)別グループ:例えば「ネットワーク管理者」「データベース管理者」など、仕事の役割ごとにグループを作り、そこにユーザーを割り当てます。
  • 必要な権限だけ付与:そのグループに、その役割で本当に必要な最低限の権限だけを与えます。例えば、サーバーの閲覧だけなら read、操作が必要なら use、全てできる manage はごく一部の管理者のみに絞ります。

コンパートメントでリソースを分ける

コンパートメントは、リソース(サーバーやデータベースなど)を論理的に整理する「箱」です。

  • 環境やプロジェクトで分割:開発・テスト・本番環境ごと、またはプロジェクトごとにコンパートメントを分けます。
  • アクセス範囲を限定:このコンパートメントごとにグループへのアクセス権限を設定することで、「Aプロジェクトの人はBプロジェクトのリソースに触れない」といった厳密な分離が可能です。親コンパートメントの権限は子に引き継がれるので、階層構造を意識しましょう。

2. 公開範囲を決める:VCNで「最小公開」を実践

OCI上のネットワークはVCNで構築し、外部への公開範囲をコントロールします。

パブリックとプライベートの使い分け

ネットワークを「パブリックサブネット」と「プライベートサブネット」に分けて、重要なリソースを隠します。

  • パブリックサブネット(公開層):インターネットから直接アクセスが必要なWebサーバーなどを配置。
  • プライベートサブネット(非公開層):データベースやアプリケーションサーバーなど、外部から直接見せたくない機密性の高いリソースを配置。攻撃対象を最小限に抑えられます。

セキュリティルールで通信を厳しく制限

  • セキュリティリスト(サブネット単位):サブネット全体で、どの通信を許可するかを決めます。
  • ネットワークセキュリティグループ(NSG / リソース単位):サーバーやデータベースなどのリソース個別に、さらに細かく通信ルールを設定できます。

これらを組み合わせて、「本当に必要な通信だけ」を許可するように設定します。

セキュリティリストとNSG(ネットワーク・セキュリティ・グループ)の使い分けについては、こちらのVCNの基本と考え方の記事でも少し触れています。

外部への出口を最小限に

インターネットとの接続点(ゲートウェイ)も最小限に絞り、管理します。

  • インターネットゲートウェイ (IGW):公開サービスがインターネットからアクセスされるために必要ですが、公開したいものだけここを通るようにルーティングを限定します。
  • サービスゲートウェイ (SGW):OCI内のサービス(ストレージなど)とは、インターネットを通さずに安全に接続できます。これにより、機密データをインターネットに晒すリスクを減らせます。

継続的な運用と監視:作った後も安全に

セキュリティは一度設定したら終わりではありません。常にチェックし、変化に対応することが重要です。

定期的な見直し

  • 権限の棚卸し:グループメンバーシップや付与された権限が、今も適切か定期的に確認し、不要な権限はすぐに削除しましょう。異動・退職者への対応も速やかに。
  • ネットワーク設定の見直し:セキュリティルールやルーティングに不要な穴がないか定期的にチェックし、一時的に開けたポートは用が済んだら閉じましょう。

監査と通知を活用

OCIには強力な監査機能があります。

  • Auditサービス:OCIで行われたすべての操作を自動で記録します。「誰が、いつ、何をしたか」がわかるので、もしもの時に原因究明に役立ちます。
  • Events Service / Cloud Guard:おかしな設定や不審な動きがあった場合に、自動で検知して通知してくれます。これにより、問題を早期に発見し、対応できます。

もしもの時の準備(インシデント対応)

  • 対応手順の準備:トラブルが起きたときの対応手順を事前に決めておきましょう。
  • 設定変更の記録:一時的に設定を変える場合は、必ず記録を残し、作業後は元に戻すルールを徹底します。
  • 弱点の洗い出し:定期的な脆弱性診断や侵入テストで、隠れた弱点を見つけて改善することも大切です。

まとめ:OCIセキュリティの基本を実践

OCIのセキュリティは、この「最小限」の原則をいかに徹底するかにかかっています。

  1. 設計: 権限とネットワークを慎重に設計する。
  2. 実装: 最小権限・最小公開の原則に従って設定する。
  3. 運用: 定期的に見直し、監視する。
  4. 改善: 新たな脅威や要件に合わせて、継続的にセキュリティを強化する。

これらの基本原則を実践していくことで、OCI環境におけるセキュリティレベルは飛躍的に高まり、安心してクラウド上で展開できるようになります。今日からOCIセキュリティを盤石なものにし、クラウドの真のメリットを享受していきましょう。

参考リンク

OCI(Oracle Cloud Infrastructure)とは?エンタープライズクラウドの実力と導入メリット

近年、エンタープライズ領域において注目を集めるクラウドサービス、Oracle Cloud Infrastructure(OCI)について、技術的な観点からその特徴と優位性を解説いたします。

OCIは、Oracle社が提供する次世代のパブリッククラウドであり、「オンプレミスの延長線上でクラウドを構築したい」という企業ニーズに応えるプラットフォームです。

OCIの成り立ちと進化

OCIは2016年10月に提供開始されました。当初は1リージョン展開でしたが、機能と拠点を急速に拡張し、2025年現在では50リージョン150以上のサービスを提供するまでになりました。2024年だけでも400を超える主要機能が強化されるなど、OCIは今なお加速度的に進化を続けています。

このような「後発」ならではの設計思想が、OCIの大きな強みとなっています。

OCIが実現する「自社専用ネットワーク空間」

OCIでは、ユーザー単位(テナンシ)で完全に独立したネットワーク(VCN)を構築できます。オンプレミスでルーターやスイッチ、ファイアウォールを組み合わせて構築していた構成を、そのままクラウド上で再現できます。

主要なネットワーク機能:

  • CIDRベースのIPアドレス設計
  • パブリック/プライベートサブネットの使い分け
  • セキュリティリストやネットワークセキュリティグループ(NSG)による詳細なアクセス制御
  • VCNピアリングやDRGによるオンプレミス接続の容易な構成

「後発の強み」から生まれた安心のクラウド設計

OCIは「後発のクラウド」として、他社クラウドの弱点を分析し、それを補完するよう設計されています。

その代表例が、SmartNICという特殊なネットワークカードを用いた「分離型ネットワークアーキテクチャ」です。

なぜ安全なのか?

一般的なクラウドでは、複数の仮想サーバー(VM)が同じソフトウェア層(ハイパーバイザー)で管理されます。万が一、ハイパーバイザーに不正アクセスや脆弱性が発生した場合、他の仮想サーバーにも影響が及ぶ可能性があります。

OCIでは、通信処理をハイパーバイザーを介さず、SmartNICという専用チップで直接処理する仕組みを採用しています。これにより、他のサーバーへの影響が抑制され、結果として、安全性が飛躍的に向上しています。

OCIのセキュリティ機能:ミスや攻撃から守るための仕組み

OCIには、セキュリティ事故や人的ミスを未然に防止する機能が数多く備わっています。

セキュリティ機能 概要 効果
セキュリティ・ゾーン 事前に定義された安全なルールに違反する設定を自動的にブロック 設定ミスの防止
コンパートメント プロジェクトや部署ごとにアクセス権限を区分けして管理 誤操作や権限の過剰付与を抑制
暗号化の標準実装 保存データ、送信中データをすべて暗号化 外部からの不正アクセス防止
データ中心のセキュリティ どのユーザーがどのデータにアクセスできるかを細かく制御 データそのものの保護
脆弱性の自動検出と修復 OSやソフトウェアの脆弱性を自動的に検知・修正 セキュリティリスクの低減

OCIにおけるセキュリティ上の特徴

圧倒的なコストパフォーマンス

OCIは、クラウド運用のコスト削減にも優れた利点があります。

  • データ転送は月10TBまでのアウトバウンド通信を無料で提供しており、大規模なデータ通信が必要なワークロードでもコストを抑えやすい設計です。
  • コンピュートやストレージのコスト面では、他社クラウドと比較してコスト効率に優れているとの声も多く、運用コストの最適化に貢献します。
  • 柔軟なコンピュートシェイプ(CPU・メモリ構成のカスタマイズ)により、利用状況に応じた最適な構成が可能で、無駄のないリソース設計とコスト最適化を実現します。

業界初のSLAで「性能」も保証

OCIは、一般的な可用性SLAに加え、性能管理操作にもSLAを定義し、3つの軸でサービスレベルを保証しています。

可用性

OCIでは、インスタンスやブロックストレージ、ロードバランサーなどの各サービスについて、可用性を明記しています。

性能(処理能力やスループットなど)

OCIのSLAの中で最も特徴的な点です。

例えば、以下のような項目の性能について保証しています。

  • ブロックストレージのIOPS(読み書き処理能力)

  • ネットワークのスループット(転送速度)

管理操作の実行可能性(API/コンソールでの操作)

APIやコンソールでの操作が「正しく機能すること」もSLAの対象です。

画像

https://blogs.oracle.com/oracle4engineer/post/oci-tokyo-osaka から引用)

Oracle Databaseユーザーにとっての最適解

Oracle Cloud Infrastructure(OCI)の最大の強みは、オンプレミスのOracle環境との高い互換性移行性にあります。従来の資産や知識をそのまま活用でき、クラウドへの移行障壁が低い点が特徴です。

まとめ

OCIは、後発クラウドであるという強みを活かし、他クラウドの課題を徹底的に分析した上で設計されています。性能セキュリティコスト互換性の全方位にわたり完成度の高いクラウドとして設計されたOCIは、特に以下の企業に適しています。

  • 高いセキュリティが求められる業種(金融、公共など)
  • Oracle Databaseの利用実績がある企業
  • ミッションクリティカルなワークロードをクラウドで運用したい企業

OCIは、今後も「次世代クラウド」としての存在感を高めていくと期待されます。

参考リンク