近年、エンタープライズ領域において注目を集めるクラウドサービス、Oracle Cloud Infrastructure(OCI)について、技術的な観点からその特徴と優位性を解説いたします。
OCIは、Oracle社が提供する次世代のパブリッククラウドであり、「オンプレミスの延長線上でクラウドを構築したい」という企業ニーズに応えるプラットフォームです。
OCIの成り立ちと進化
OCIは2016年10月に提供開始されました。当初は1リージョン展開でしたが、機能と拠点を急速に拡張し、2025年現在では50リージョン、150以上のサービスを提供するまでになりました。2024年だけでも400を超える主要機能が強化されるなど、OCIは今なお加速度的に進化を続けています。
このような「後発」ならではの設計思想が、OCIの大きな強みとなっています。
OCIが実現する「自社専用ネットワーク空間」
OCIでは、ユーザー単位(テナンシ)で完全に独立したネットワーク(VCN)を構築できます。オンプレミスでルーターやスイッチ、ファイアウォールを組み合わせて構築していた構成を、そのままクラウド上で再現できます。
主要なネットワーク機能:
- CIDRベースのIPアドレス設計
- パブリック/プライベートサブネットの使い分け
- セキュリティリストやネットワークセキュリティグループ(NSG)による詳細なアクセス制御
- VCNピアリングやDRGによるオンプレミス接続の容易な構成
「後発の強み」から生まれた安心のクラウド設計
OCIは「後発のクラウド」として、他社クラウドの弱点を分析し、それを補完するよう設計されています。
その代表例が、SmartNICという特殊なネットワークカードを用いた「分離型ネットワークアーキテクチャ」です。
なぜ安全なのか?
一般的なクラウドでは、複数の仮想サーバー(VM)が同じソフトウェア層(ハイパーバイザー)で管理されます。万が一、ハイパーバイザーに不正アクセスや脆弱性が発生した場合、他の仮想サーバーにも影響が及ぶ可能性があります。
OCIでは、通信処理をハイパーバイザーを介さず、SmartNICという専用チップで直接処理する仕組みを採用しています。これにより、他のサーバーへの影響が抑制され、結果として、安全性が飛躍的に向上しています。
OCIのセキュリティ機能:ミスや攻撃から守るための仕組み
OCIには、セキュリティ事故や人的ミスを未然に防止する機能が数多く備わっています。
セキュリティ機能 | 概要 | 効果 |
---|---|---|
セキュリティ・ゾーン | 事前に定義された安全なルールに違反する設定を自動的にブロック | 設定ミスの防止 |
コンパートメント | プロジェクトや部署ごとにアクセス権限を区分けして管理 | 誤操作や権限の過剰付与を抑制 |
暗号化の標準実装 | 保存データ、送信中データをすべて暗号化 | 外部からの不正アクセス防止 |
データ中心のセキュリティ | どのユーザーがどのデータにアクセスできるかを細かく制御 | データそのものの保護 |
脆弱性の自動検出と修復 | OSやソフトウェアの脆弱性を自動的に検知・修正 | セキュリティリスクの低減 |
圧倒的なコストパフォーマンス
OCIは、クラウド運用のコスト削減にも優れた利点があります。
- データ転送は月10TBまでのアウトバウンド通信を無料で提供しており、大規模なデータ通信が必要なワークロードでもコストを抑えやすい設計です。
- コンピュートやストレージのコスト面では、他社クラウドと比較してコスト効率に優れているとの声も多く、運用コストの最適化に貢献します。
- 柔軟なコンピュートシェイプ(CPU・メモリ構成のカスタマイズ)により、利用状況に応じた最適な構成が可能で、無駄のないリソース設計とコスト最適化を実現します。
業界初のSLAで「性能」も保証
OCIは、一般的な可用性SLAに加え、性能と管理操作にもSLAを定義し、3つの軸でサービスレベルを保証しています。
可用性
OCIでは、インスタンスやブロックストレージ、ロードバランサーなどの各サービスについて、可用性を明記しています。
性能(処理能力やスループットなど)
OCIのSLAの中で最も特徴的な点です。
例えば、以下のような項目の性能について保証しています。
-
ブロックストレージのIOPS(読み書き処理能力)
-
ネットワークのスループット(転送速度)
管理操作の実行可能性(API/コンソールでの操作)
APIやコンソールでの操作が「正しく機能すること」もSLAの対象です。
(https://blogs.oracle.com/oracle4engineer/post/oci-tokyo-osaka から引用)
Oracle Databaseユーザーにとっての最適解
Oracle Cloud Infrastructure(OCI)の最大の強みは、オンプレミスのOracle環境との高い互換性と移行性にあります。従来の資産や知識をそのまま活用でき、クラウドへの移行障壁が低い点が特徴です。
まとめ
OCIは、後発クラウドであるという強みを活かし、他クラウドの課題を徹底的に分析した上で設計されています。性能、セキュリティ、コスト、互換性の全方位にわたり完成度の高いクラウドとして設計されたOCIは、特に以下の企業に適しています。
- 高いセキュリティが求められる業種(金融、公共など)
- Oracle Databaseの利用実績がある企業
- ミッションクリティカルなワークロードをクラウドで運用したい企業
OCIは、今後も「次世代クラウド」としての存在感を高めていくと期待されます。
参考リンク